百年漁師

ごち網漁

手こぎ舟から始まり代々百年、獅子島漁師の漁魂

まだ夜も明けない不知火海に漁船を走らせる、百年漁師三代目・山下英輝。
ものごころついたときから先代の手伝いをしながら漁師とは何だと肌で感じ、生きてきた。
初漁9歳。都会には目もくれず、この島一筋を貫き通す。
漁師になって30年以上になっても貪欲に海と魚と対峙する。
自らの代で始めた吾智網という漁法に、生きる術と魅力に取り憑かれる。
吾智網漁は“トントコ漁”とも呼ばれていた。網を人力で手繰る時代、数人の漁師が一斉に網を引き
舟のレールをトントコトントコたたいていたのだという。
時代や技術は進化すれど、この海を庭と呼べるほど知り尽くすには、相応の絶え間ない日々の探究と信念がなければ語れないことだ。
今でも夫婦で漁に出る。
若い頃は乳飲み子であった現代表の城を背中にしょい、漁に出たこともあったという。
漁師という仕事は自然相手がゆえに生きがいでもあるが、時には恨めしくなるときもある。
そんな海と厳しく、そして逞しく生きてきたからこそ、訪れる人へ快く、そして気前よく接することができるのだ。
海が好き、人が好き、島が好き。ここにくればそれがすぐにわかるはずだ。
まだまだ三代目の漁魂は健在なのだ。
寡黙な漁師も多いが三代目はよく喋る。とにかく海や漁をよく語る。それも楽しそうにだ。
一途な漁師は人に楽しく生きることを伝えたいのだろう。

山下家三代目漁魂健在 獅子島 景色
もう一つの網 あおさのり

冬から春にかけて島の磯香

三代目は長島の名産でもある“あおさのり”を育てている。
昔から行われていたが、近年その香り・品質のよさが全国に知れ渡り
島中あげて盛んに行われるようになった。
島の冬の風物詩ともいうべき海岸沿いの緑のオサ網と杭群である。
あおさのりのことをこの島では“オサ”と呼んでいる。
オサは初冬の9月頃に菌付けをして2月から4月にかけて繰り返し収穫をする。
特に一番オサは色・味も濃く香りが非常によく髙価値になる。

オサは同じ海で育てても、その短期間の行程に風味・品質に大きな違いが生まれてくる。
三代目はとにかくオサに手間と時間と愛情を惜しみなく注ぐ。
ある程度の管理でもオサは育つ、けれど、本当に自分が旨いといえる、誰もを“これは違う!”と言わしめるオサをとことん突き詰めているのだ。
オサの身になって考え、オサの声に耳を傾け、隅から隅まで目を凝らして我が子のように育て上げる。
三代目がどんなに不作の年でさえ、最高等級のオサを作り続ける所以である。
本人曰く、オサ馬鹿上等である。
そんなに手間をかけて何になる、そんなに時間をかけて何の得になる。
そんな声にもどこ吹く風どころか、三代目には“どこ福風”なのだ。
オレがつくるのは山下英輝のオサなんだという、
自分のオサを食べた人に口福があればそれが一番なんだと。
「島のごちそう」のオサがみんなに「これでいい、これがいい」
そう言われるものを育て続けている。

隠れの名品 磯香島逸 あおさ収穫日は家族総出近所の加勢をもらいながら手間暇かけて仕上げています。

あおさのりは生で食べられますが、日持ちがしません。そのため、通常は乾燥させた状態で販売しています。陸に上げてすぐに潮水で流しながら付着物を取り除き、さらに真水で洗います。その後小分けして脱水後、ゆっくりほぐしながら乾燥しやすい大きさまで平らにまんべんなく敷き詰め数時間乾燥させていきます。乾燥が終わったらさらに、目を凝らしながら付着物を一つひとつ見つけ取り除いていきます。一番収穫の濃いごいとした色から春先の最終収穫の頃は鮮やかな緑色をしています。

獅子島